小 熊 座 句集 『半跏坐』 佐藤 鬼房
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       自宅前にて                    絵はがき 山田美穂さん提供




       句集 『半跏坐』抄 (自選句) 昭和59年〜64年 佐藤 鬼房


          雪兎雪被て見えずなりにけり

          地吹雪や王国はわが胸の中に

          池心より淡雪の舞ひ上るかな

          老婆のやうな脚長娘アフリカ飢ゆ

          海に入る日盛りの川ことも無げ

          伊賀ロは青の濃くなる竹の春

          三輪山に秋声しのび入るごとし

          鼻欠けの猿石よ青蜜柑の木

          秋の蛾の桜色して石舞台

          喜佐谷を守りて蜂の大きな巣

          いかるがに柿食ふことも旅の情
      
          七草や生くるに訳(わけ)の多すぎる

          佐保姫の裳裾の沖を遠眺め

          山家集読むことが忌を修すこと
                    
          夕霞子狐ならば呼びとめん
          
          春月や小鍛冶が童(わらべ)うしろむき

          かなしみは背後より来る抱卵期

          眦に聖痕のあり木下闇

          深谷にいつの晩夏も幼な声
 
          間引菜を植ゑもどしゐる媼かな

          松島の雨月や会ふも別るるも

          十月の声の一つにわが風樹

          秋深き隣に旅の赤子泣く

          木枯の闇のくだものナイフかな

          松島に筬(をさ)の音せり夕鶴か

          楢山の枯れの極みに火めくかな

          みちのくの凍ての割目が死の戸口

          ポケットに魑魅を眠らせ除夜詣

          天眼に洩れたるわれや去年今年
            
          廃屋の多くて板谷(いたや)雪峠
       
          水神の垂氷(たるひ)を舐めてゐる夕陽

            栃木
          巴波川(うづまがわ) 水浅くして青柳

            岩泉(岩手)
          母の日の慈悲の鎮もる地底湖よ

            胃切除のため入院 七句
          この世にて桐の残花の日暮見ゆ

          ファーブルの糞ころかしや夏を病む
                           
          夏霞弟子を捨てたる人羨(とも)
             
          眼窩よりこぼれし金亀虫(こがねむし)の闇

          償ひlは人に知らるな濃あぢさゐ
                   
          父たちの夏寒む寒むと火蛇(サラマンドラ)

          海霧(ガス)の沖見てをり鯨浮かぶかと
     
          天牛のぎいと音して日没りけり

          優曇華や壷中は夜の棲むところ

          魔の六日九日死者ら怯え立つ

          砂に陽のしみ入る音ぞ曼珠沙華

          野葡萄や死ぬまで続くわが戦後

          螻蛄の闇闇の力といふがあり
              
          飴舐めて孤独擬(もどき)や十三夜

           岩手東山町にて
          億年の化石を夢見冬の蝗

          山住の怖きは冬の真昼時
 
          満月をあげ依代の一冬木

          冬の終りルオーのやうな哀しさで

          冬の別れゴツホのやうな優しで

          鶏が血を見てをり雪の隙間にて

          垂直に生くかなしさや牡蠣を食ふ

          壮麗の残党であれ遠山火

          喜夫死後の雲雀に会へり寒河江(さがえ)

          半坐の内なる吾や五月闇

            多磨霊園にて
          白泉のもの朽縄も?蝉も

          七五三妊婦もつとも美しき
             
            今様うた合わせ
          顔暮れて鬼の貫之(つらゆき)らしき冬

          萌えどきの太陽は黄卵(きみ)生くるべし

          鶯やわれのみならず藪ごのみ

          影ゆれて花いちもんめ草の餅

          騾馬を飼ひたし菜種咲く死後のため

          もじやもじやの四月が終わる翁草

          金雀枝や道化にて鼻を塗り分けん

          胸に扉がいくつもありて土用浪

          蝦蟇わわれ混沌として存(ながら)へん

          冬の蝶完璧に飛び毀れたり

          寝そべっているお歳暮の長芋が






  
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